近年は,合併等の企業結合が活発に行われており,いわゆる大企業と中小企業との力関係の差はどんどんと大きくなっているように思います。
これに伴い,自覚的であるか無自覚的であるかはともかく,大企業が取引先である中小企業に対して,その力関係を背景として不当な要請を行う契機が増えてきているものと思います。
中小企業にとっては,取引先である大企業との取引を継続することが死活問題であるなどの事情から,取引関係を維持するために不当な要請であっても応じざるを得ないという状況があるかと思われます。
独占禁止法では,このような事業者間の優劣関係を背景として行われる不当な要請のうち一定の要件を満たすものについては,「優越的地位の濫用」として規制しています。
優越的地位の濫用が問題となったケースは,道内においても発生しています。
「優越的地位の濫用」とは,自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に①商品等の購入要請,②利益提供の要請,③その他の濫用行為を行うことをいいます。
①については,小売業者などが納入業者に対して自社の商品やサービスを購入させること,②については,小売業者などが納入業者の従業員に対して,セールなどの準備の手伝いを行わせることがそれぞれ典型です。③の例としては,正当な理由なく商品の購入後に代金を減額するなどの行為が挙げられます。
優越的地位の濫用には,優越的地位の利用や,不当性(専門用語では「公正競争阻害性」といいます。)などの他の要件もあり,これらの要件該当性が争われるケースは少なくありません。
もっとも,優越的地位の濫用行為であると認められた場合には,公正取引委員会から当該行為を排除するために必要な措置を命じられることがあり,また,継続的に行われたものに対しては,公正取引委員会から濫用行為を行った企業に対して課徴金納付命令がなされることとなり,取引関係の適正化につながります。
また,優越的地位の濫用行為の被害者である中小企業には,損害賠償請求権が認められています。
ところで,事業者が取引先に対して不当な取扱いを行う行為に対しては,優越的地位の濫用にはあたらなかったとしても,独禁法の他の規制や,下請法などの特別法による規制の適用を受けることも考えられ,損害賠償請求等が可能な場合があります。
取引先から不当な扱いを受けている事業者の方は,弁護士や公正取引委員会にご相談されると良いかもしれません。
池田翔一